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あの日から
少しざらついている空気の粒
同じ道、同じ部屋、同じ時計の音
なのに、風だけが 知っている
窓辺の植物が少しだけ傾いている光の届かないほうへ
落ちた言葉が
床の隅にまだ残っている誰かが投げたものか
自分がこぼしたものか、わからないまま
足音だけが、それを避けて通る
行かなくて
行けなくなってよかったのかもしれない
でも、行かなければ見えなかった影もある
あれは幻だったのか
幻にしてしまいたいだけなのか
昼の光が
壁を這う本を開いて、閉じて
眠りに入る寸前で、また波のように思いが戻ってくる
波打ち際に投げ返されたまま、
言葉にならないザラザラとした塩のような感情が
指と指の隙間から落ちていく
そうしているうちに、
言葉はあるが、気配のないメッセージが届く
何の体温もない文字たちが紙の上に並んでいる
わたしは必要とされなかったのだろう
ただ一つ、それでも、芯を折らなかった
それだけが、この曖昧な輪郭の中で
かろうじて自分を名乗れるものか
外では、道ばたに咲いた名も知らぬ草花が
風にもたれながらも咲いている
根を選べず、場所も選べず、それでも、咲くしかない
誰に名を呼ばれることもなく
ただ静かに ある