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遥なる庭のひかり

· poetic

朝のひかりをふくんだ菜の葉を摘み

土のぬくもりを帯びたねぎや茄子を

湯気にゆらめく味噌にそっと溶かしてゆく

その日々が、どれほど豊かだったか

あの頃は、知ることもなかった

きゅうりの棘も

トマトの赤も

畑はそのまま、ぬくもりの器だった

花咲く庭には、四季のことばがあった

手入れはきっと骨の折れる営みだったろうに

それでも色は絶えることなく

その背には、いつも土と光が寄り添っていた

盆と正月

その手は祈りのように節を刻み

静けさを湛えた精進の膳にも

まなざしのようなやさしさが宿っていた

食卓はいつも、やさしい灯りのようで

「何を食べても美味しかった」という記憶が

いまでは、ひとつの真実のように胸に残る

週に一度は墓前を訪れ

花を替え、手を合わせ

語らぬ語らいに耳を澄ませていた

そして今

その場所に立つたびに

風に揺れる木々の葉が

あの人の手が残したものだと知る

そのささやきは、

「ここにいるよ」と頬を撫でるようで

胸の奥に、静かなひかりが灯る

幼き日々を育んだあの庭は

いまはもう、懐かしき人たちの気配を映さぬ場所となり

その土は、別の人の手にゆだねられている

それでも、土の中に、風のなかに

あのぬくもりはそっと息づいている

今も わたしを 静かに支えている